プクと泡が空へと昇る
空気と同化して消える水泡
赤い裾を翻してプクリと見事な泡を吐いた
ユラユラ揺れる情景に男はいた
さらさらといつもの作業に取り掛かる男は相変わらず不機嫌で
そんなに嫌なら何も考えないで放り捨てたら?と思うのだが根が真面目すぎる男には届かない
プクっと泡が消えて揺れる
その時際立つ静寂は嫌いではない
じっと凝らすように見つめていても無視されて私は此処に本当にいるのだろうかと疑問が生まれる
此処にいるのは
私なのだろうか
此処にいるのは
私と思い込んでいるものであって
此処にいるのは
私ではないものかもしれない
此処にいる私はただの水泡と等しい
生まれては消え
消えるために生まれた
人魚姫
プクプクと生まれては消える水泡を空に還すことに夢中になっていたら
「何をしている」
話し掛けられた
(別に何も)
ただ水泡を空へ還していたんだとプクリと一層大きな泡を吐く
「何を考えているか知らんが暇なら我輩と付き合ってくれないかね、」
そのことばに是とも否とも答えず水泡を作った
小さく唱えた呪が私の周りで円を描く
ふわりと持ち上げられて空気を吸った
水の中の空気とは違う味の酸素
尾ひれから変化した赤いスカートをちらりとみた男は誉めてもくれなかったけれど
「先生を見つめることに忙しいけれど相手してあげます」
という私へ、そっと笑った
赤いスカートから伸びる脚を貴方に絡めてみたいなんて囁いたならどうしてくれるかしら
淡い思考は水泡のようにすぐに空に還元した